林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』



東急電鉄・ファイブハンドレッドに下水処理費用負担を求めて上告受理申し立て


千福ニュータウン団地施設管理組合は東京急行電鉄(東急電鉄)及び東急系列のゴルフ場ファイブハンドレッドクラブとの裁判について2011年10月6日付で最高裁判所に上告受理を申し立てた。この裁判は東急電鉄の別荘地ファイブハンドレッドフォレスト(500フォレスト)やゴルフ場ファイブハンドレッドクラブ(500クラブ)からの汚水処理の負担金をめぐる争いである(林田力「東急電鉄がニュータウン管理組合と係争=静岡(上)」PJニュース2010年11月15日)。
管理組合は東急電鉄らに対して未払いとなっている施設大修理充当金及び施設維持管理費の支払いなどを求めている。ファイブハンドレッドフォレストには富士山荘と裾野クラブという建物が建設されている。ゴルフ場内にはクラブハウス、食堂・十九亭、ロッジ等の建物が建設されている。
管理組合への施設維持管理費等の支払い金額は利用口数に応じて算定される。これまで各施設が支払ってきた利用口数は以下の通りである。
・富士山荘:4口
・裾野クラブ:5口
・ファイブハンドレッドクラブ:67口
これに対して管理組合側は以下の値が正しい利用口数であると主張する。
・富士山荘:44口
・裾野クラブ:60口
・ファイブハンドレッドクラブ:187口
利用口数の算出方法は管理組合の使用細則第12条に「建築用途に応じたJIS規格に基づく算定人数により汚水量を算定し、1口あたり1立方メートルで除したものをその口数とする」と定めている。JIS規格は「建築物の用途別によるし(屎)浄化槽の処理対象人員算定基準 JIS-A3302」を指す。このJIS規格では建築用途と床面積から算定表に基づいて処理対象人員が算定され、その処理対象人員を基に計画汚水量が算定される。管理組合の利用口数はJIS規格の表に基づいて算出したものである。
これに対して東急電鉄はJIS規格の但し書き「建築物の使用状況により、表が明らかに実情に添わないと考えられる場合には、この算定人員を増減することができる」を持ち出した。この但し書きを根拠に実際の水道使用量を基に利用口数を決めることがJIS規格に基づく算定方式と主張して現状の口数を是とした。JIS規格の表に基づいて算出された汚水量よりも実際の汚水量の方が下回っているため、実際の汚水量で算出した方が東急電鉄の負担は少なくなる。
対する管理組合は以下のように反論する。東急電鉄らの建物はJIS規格但し書きによって減算できる場合に該当せず、JIS規格但し書きによって減算しうることの立証がないため、原則どおりにJIS規格の表に基づいて利用口数を算定すべきである。
JIS規格但し書きは建物から排出される汚水が浄化槽の処理能力を超えて流入しまう場合に対応するために算定人員を増加できるようにしたものである。原則として算定人員を減少させることは想定していないとJIS規格の運用指針に明記されている。
第一審・静岡地裁判決は東急電鉄らの主張を認め、管理組合が控訴した。一審判決の論理はJIS規格の表を無視するものであり、JIS規格が定められた意味をなくしてしまう。もともとJIS規格の定める計画汚水量と実際の汚水量は意味が異なる。浄化槽設置の指標となる計画汚水量は、建築用途毎に排出される水質や汚れの程度の違いをも考慮して算出された数値である。
浄化槽は排出ピーク時でも処理できるように設計されなければならない。JIS規格の表から算出された計画汚水量は、浄化槽の処理能力を超える汚水が流入することがないように1日の最大汚水量を想定したものである。実際の汚水量から算出するならば不十分であり、代替値にならない。
この点を管理組合は控訴審で強調し、さすがに控訴審判決では但し書きを適用することが東急電鉄ら主張のJIS規格の正しい解釈とはしなかった。ところが、控訴審では「実際の汚水量が判明する以上は、これにより利用口数を算出する方が建物所有者間の公平に資する」と判示し、JIS規格に基づく汚水量の算出そのものを否定した。
これについて管理組合理事長は「裁判所は管理組合の主張を理解したが、理由を別に求めたために非常に問題な判決となった」と分析する。このため、管理組合は上告受理を申し立てた。申し立ての骨子は大きく5点ある。
第一に弁論主義違反である。利用口数算定の基礎となる汚水量をJIS規格に基づいて算出することは東急電鉄らも認めている。JIS規格の解釈で争いになっただけである。ところが、控訴審はJIS規格に基づかずに汚水量を算定した。
第二に理由不備、審理不尽及び経験則違反の違法である。控訴審判決は「実際の汚水量が判明する以上は、これにより利用口数を算出する方が建物所有者間の公平に資する」とするが、何故公平に資するのか証拠に基づいた理由が示されていない。
この点が第一審や控訴審で争点になったこともない。控訴審判決の論理によればJIS規格に基づくことが不公平となるが、これはJIS規格の存在意義を真っ向から否定する主張である。汚水処理を管轄する全国の下水道行政の運営にも深刻な悪影響を及ぼす。
第三に区分所有法違反である。区分所有法第30条第1項は「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。」とする。利用口数をJIS規格に基づいて算出することは管理組合の規約で定められている。組合員である東急電鉄らも拘束される。
第四に実際の汚水量が判明していないにもかかわらず実際の汚水量が判明しているとした違法である。東急電鉄らは実際の汚水量を提示していない。平成15年から平成20年までの平均汚水量しか示されておらず、実際の汚水量に基づくものではない。
第五に実際の汚水量を東急電鉄が提出した証拠だけから判断している。控訴審判決が根拠とした証拠は株式会社日水コンという会社が作成した報告書(甲第19号証)のみである。甲第19号証は訴訟係属後に東急電鉄らの依頼によって、東急電鉄らの主張を裏付けるために作成された書面である。
この種の書証は特に慎重に内容の真実性を吟味する必要があるが、真実であることを裏付ける事情はない。日水コン自身が、実際に汚水量を測ったというような事情や建物図面や建物内部を自ら検分した等の事情すら立証されていない。
反対に東急電鉄は富士山荘などの建築図面や実際の汚水量を測ったデータを証拠として提出していない。この情報隠しは東急不動産だまし売り裁判や二子玉川ライズ訴訟でも共通する東急の体質である(林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』)。

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